当時、母は教会の中にある喫茶店で働いていた。
父は板金業を営んでいたらしい。しかし物心ついたときには平日も土日も関係なく家にいるようになっていた。酒とたばこ。働かない。
でも、彼女には優しい父だった。
もしかしたら、もうこのころから体調を崩していて、思うように働けなくなっていたのかもしれない、と今になって思う。背は高かったが、子どもから見てもひょろりと細い人だった。
姉は二人いたが10以上離れていて、二人とも早々に家を出ていった。末っ子、だけれど大人の社会の中で一人っ子のような長女のような。そんな環境で育った。
だから、小さなころから大人びていたのかもしれない。
週末はカトリック教会の日曜学校に家族で行く。
その時間が好きだった。
何をしていたというわけでもない。神父さんの話を聞きながら、それに関連することだったり、はたまた全然関係ないことだったり、とにかく何かをずっと考えたり妄想したりしていた。
姉に子どもが産まれてからは、ベビールームで赤ん坊をあやしながら説教を聞いていた。
まわりを気にしなくていい静謐な時間。
ひとりの時間。
今にして思えば、宝物の時間だった。
そんな週末を過ごしていたものだから、同じ学校の子たちみんなが入っていた地域の子ども会には入っていなかった。
だから地域の集まりには一緒に遊びに行けなかった。それもあってか、子どもと遊ぶよりも、大人の中で過ごす時間が多かった。